商品詳細

人は感情によって進化した (携書064)

人類を生き残らせた心の仕組み

人は感情によって進化した (携書064)

紙の書籍
価格: 1,080円(税込)
フォーマット
紙の書籍
電子書籍
価格
1,080円
800円
  • 発売日2011.6.15
  • ISBN978-4-7993-1024-3
  • ページ数208P
  • サイズ新書版ソフトカバー /

商品概要

さまざまな具体例をもとに、感情の働きを明らかにします。そして、感情が私たちに備わった生物進化の歴史を考えます。

商品説明

感情の萌芽にあたる仕組みは、地球上に哺乳類が現れたころにはすでに、人類の祖先に備わっていたことでしょう。
感情は、生きのびるのに必要な機能として、生物進化の歴史をとおして、徐々に積み上がってきたのです。
捕食者から逃げる「恐怖」は比較的早い段階で、人類の祖先の動物の身につきました。
そして、個体の上下関係を形成する「怒り」や「おびえ」は、群れを形成するようになった段階で身につきました。
人間として進化した段階では、協力集団が築かれ、それを維持する役割を担う「罪悪感」や「義理」などの、複雑な感情が進化しました。

本書ではさまざまな具体例をもとに、感情の働きを明らかにします。
そして、感情が私たちに備わった生物進化の歴史を考えます。

目次

序章 「野生の心」と「文明の心」
「感情」と「理性」は完全に分けられるものではない
感情が思考を方向づける
「感情」はジャングルや草原で身につけた

第1章 恐怖と不安
「高所恐怖」も「閉所恐怖」も生まれつき持っている
「恐怖」が意識に臨戦態勢をとらせる
恐怖を克服すべき場合・残しておいたほうがいい場合
「不安」を解消するのによいテクニック

第2章 怒りと罪悪感
人もサルも「怒り」で上下関係を確立する
怒りは権利を守り、集団生活を発展させた
怒りが集団内の協力と平和を生み出した
集団間の競争が個人の能力の多様化を生んだ
「じぶんへの怒り」はどうして起こる?

第3章 愛情と友情
動物には子孫を生き残らせるための「愛情」と「冷酷さ」が同居する
子育てのために配偶者に愛情を示す
「友情」が集団内の協力をはぐくんだ
博愛の精神まではなかなか持てない
遺伝情報の欠陥で協力関係を築けない人もいる

第4章 好きと嫌い
食べ物の好き嫌いも生きのびるために必要だった
配偶者の好みは子どもを多く産み育てるのに有利かどうかから
得手不得手は集団内で必要とされる能力から始まった
学習と教育のはじまり

第5章 嫉妬と後悔
配偶者への嫉妬は一夫一妻制を守るために役立った
集団内の嫉妬は利益を配分させるためだった
利益配分は現代も重要な問題
「後悔」は失った配分を取り返す行動の源になった

第6章 自己呈示欲と承認
「欲求」と「感情」は同じもの
自己呈示欲求の目的は、自分の得意な技能を表明し集団に貢献すること
狩猟採集時代は集団に承認されるかどうかが死活問題だった
言語の起源は自己呈示だったかもしれない
現代は自己呈示が集団への貢献につながったかどうかが不明確

第7章 楽しさと笑い
肯定的感情を持てない個体は淘汰されてしまう
「共感」が集団の協力を円滑にし、生き残らせた
笑いは楽しさを伝播させる効果が高い
共感能力は女性のほうが高い

第8章 悲しみと希望
苦しみや悲しみが生き残りに果した役割
「同情」か「お金」かという問題の裏には野生と文明の対立がある
痛みは感情に近い
希望をもつことの功罪

第9章 信奉と懐疑心
信じることで集団の協力がうまくいった
じぶんを信じられない人が超常的なものを信じやすい
狩猟採集時代の小集団は互いに信用できる安心な集団だった
何を信じたらよいかわからなくなった現代
多様な考え方や情報を維持しつつ、懐疑心を育てる必要がある

第10章  驚きと好奇心
赤ちゃんの実験から、「驚き」は生まれつきの感情だとわかる
驚きが笑いに転化する
好奇心を育む遊びは進化のために重要だった
新しいことに挑戦する好奇心がなければ生きのびられない

第11章  名誉と道徳感
リーダーへの尊敬と感謝など感情的な報酬が払われるよう進化した
集団の中での評判が生きのびるのに重要
現代社会では、集団の外の人々を敵と見るだけでは問題が起こる
地域の事情が特定の感情を失わせた可能性がある

第12章  幸福と無力感
幸福を感じる度合いは遺伝する
幸福感は飽和する
意識は幸福を追求する
文明化するにつれて、幸福感は希薄になった
多様な集団に属し、多様な幸福を追求するのが未来のかたち

著者からのメッセージ

人類が誕生してから、三〇〇万年近くが経過しています。親が子どもをもうけるまでに二〇年かかるとして、一〇万世代以上が経過したわけです。いま生きている私たちは、一〇万組の親たちが、生き残りに成功しつづけてきた結果です。私たちはいわば「勝者たちの末裔」なのですから、生き残るための多くの心の仕組みをもっていてしかるべきです。
また、私たちのうちの誰かふたりをとりあげ、はるか昔の親たちを調べれば、かならず同一人物がいます。「人類はみなきょうだい」と言いますが、たとえではなく、ほんとうにそうなのです。ですから、私たちの心の働きの本質は、みんなかなり似かよっていると考えていいのです。
進化心理学は、こうした生物としての歴史をもとに、人間の心の働きの共通性や多様性を分析します。本書では感情を切り口にして、「野生の心」がどのように進化してきたか、それを活用して「文明の心」を築くにはどうしたらよいか、を考えてきました。人間理解の視野が広がってきたと、読者のみなさんが感じられたのならば、幸いです。
最後に、進化心理学にかんする誤解について数点、補足したいと思います。
進化心理学の議論は「上から目線で嫌いだ」という感想が、よく寄せられます。たしかに私たちの心自体が、生物進化の枠内でできあがったという前提は、それが正しいとしても嫌悪感があります。
しかし、こうした人間の嫌悪感は、そもそも人間どうしのせめぎ合いに由来しています。上から目線で、他者から支配されると搾取される危険があります。また、じぶんの心の働きが誰かによって読まれてしまうと、交渉において不利な立場になってしまいます。だから私たちは、上から目線に敏感で、不利な状況からのがれようと、嫌悪するのです。
学問の議論は、その主張者が人々を支配するものでは(過去にそうした例も皆無ではなかったのですが)ありません。嫌悪感をこえて、多くの方が学問的な探究に興味をもってもらいたいと思います。
また、「野生の心」が生物進化の枠内でできあがったとしても、「文明の心」には、それから脱する可能性が大いにあります。進化心理学の議論は、遺伝情報による決定論をとなえているわけでも、「自然にかえろう」という懐古主義を唱えているわけでもありません。未来の目標と、そこに至る道筋とを明確にしようとしています。文明社会にふさわしい「心のデザイン」を模索しているのです。
未来に向けた「心のデザイン」には、それを支える社会の仕組みの確立も重要です。進化心理学は、たんなる心理学の一分野にとどまらず、経済学や社会学、組織論やコミュニケーション論など、多くの分野にかかわる視点を提供しています。今後もますます注目されていくことでしょう。
(「おわりに」から)