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「パノプティコン」という言葉をご存じだろうか? 日本語では「全展望監視システム」と訳されている。
18世紀、ベンサムによって考案された監獄の設計案だ。
ウィキリークスやフェイスブック革命による一連の騒動を見て、著者は、このパノプティコンを思い出したと語る。ただ、構図は逆だ。牢獄にいて見張られるのが政府や大企業で、看守塔にいるのが市民なのである。
あのジョージ・オーウェルが小説『1984』において危惧していたのは、「ビッグブラザー」としての政府によって、市民の一挙手一投足が監視される未来社会だったが、ウィキリークスやフェイスブックの登場は、政府活動の陰の部分を含めたあらゆる情報を明らかにし、勇気ある市民が声を結集し、命をかけた政治行動を起こすための強力な武器を与えた。
看守塔にいるのは市民であり、監視されるのは政府であるという「逆パノプティコン社会」の到来だ。
本書は、気鋭のメディア学者ジョン・キムが、ウィキリークスやフェイスブック革命に関するハーバード大学インターネット研究所の面々との議論、ならびに独自の視点による分析を通じて、この「逆パノプティコン社会」すなわち情報完全透明化社会の到来を論じる一冊である。
書籍キャッチコピー
もはや誰もこの流れを止めることはできない
目次
〈もくじ〉
第1章ウィキリークス誕生
ウィキリークス誕生
ウィキリークスとは何か?
ウィキリークスは、他の告発サイトとどこが違うか?
ミラーサイトの存在
ウィキリークスの出現が意味するもの
ウィキリークスの運営資金はどこから?
創始者アサンジュ
天才ハッカー誕生
正義の味方か、ハイテク・テロリストか?
ウィキリークスがメディアになった日
初期のウィキリークス
巻き添え殺人ビデオ 米軍ヘリによるバクダッド空爆
ウィキペディア・モデルからマスメディア・モデルへ
第2章ウィキリークスと外交
ウィキリークスは何を暴露してきたか?
アフガン戦争関連機密文書の公開
マスコミとの協力と批判
イラク戦争関連機密文書の公開
米国外交公電の公開
米国外交公電のおもな内容
外交公電暴露に対する政府のジレンマ
結局影響は大きいのか? 小さいのか?
告発者は正義の味方か? 裏切り者か?
告発者、ブラッドリ・マニング
何がマニングを告発に導いたのか?
裏切り者か? 正義の味方か?
ウィキリークス7つの論点
ウィキリークスは反米なのか?
ウィキリークスの三段階進化
ストゥライサンド効果 機密暴露への対応のジレンマ
公電暴露は、世界にどんな影響を与えるか?
米国政府のジレンマとインターネット政策の変節
1917年制定のスパイ防止法でアサンジュを起訴できるのか?
それはスパイか、報道か?
再発防止のための国家情報管理体制とは?
アサンジュとウィキリークスはどうなるか?
アサンジュのスキャンダル
最終審判ファイルと死者のスイッチ
ウィキリークスの機密性パラドックス
ジャーナリズムの役割 勇気ある報道、責任ある報道
ウィキリークスにメディアとしての資格はあるのか?
ジャーナリズムの倫理観と公共利益の文脈依存性
ウィキリークスに対する評価には冷静な判断を
ウィキリークスにわれわれが求めるもの
第3章サイバー戦争の勃発
アマゾンの決定がつきつけたもの
アマゾンはなぜ、ウィキリークスへのサービスを中止したか?
代理検閲の危険
傷ついたクラウド・コンピューティングの信頼性
サイバー戦争の勃発
サイバー戦争のはじまり
親ウィキリークス側の反撃
謎のハッカー組織「アノニマス」
DDoS攻撃は犯罪か? それとも市民の対抗策か?
第4章ウィキリークスとジャーナリズム
ウィキリークスと大手報道機関の蜜月
報道機関との連携
連携における唯一の条件 エンバーゴ
共同作業のはじまり
蜜月の終わり?
ウィキリークス内裏切りとアサンジュの求心力低下
ウィキリークスと報道機関、交渉権はどちらに?
ウィキリークスとマスメディア連携の意義
報道機関の存在意義
メディアになりたいウィキリークスとメディアのプライド
ウィキリークスに対するマスメディアの本音と打算
ウィキリークス側の打算と連携の今後
既得権とネットの真の衝突
ネットメディア関連の日米の違い
揺らぐマスメディア
メディアの多様化・多角化のなかで
なぜウィキリークスに持ち込むのか?
ウィキリークスの情報暴露に対する3つの批判
政府の権利、メディアの権利、市民の権利
ウィキペディア型から出版報道型へ、ウィキリークスの進化
高まる既存のジャーナリズムの重要性
第5章ウィキリークスと企業
次なるターゲット、米国金融機関
「腐敗のエコシステム」を根絶する!?
企業は、評判リスクといかに向き合うか?
企業の表現の自由のリトマステスト
第6章ウィキリークスの未来
ユニバーサルな技術、ローカルな制度
政府が見いだした新たな検閲機関
アイスランド 調査報道の聖地へ
ウィキリークスの今後
第7章フェイスブック革命
ウィキリークスとフェイスブック
チュニジアのジャスミン革命
政府のメディア統制とソーシャルメディアへの信頼
革命を成功に導いた引火装置
それはウィキリークス外交公電のアラブ語への翻訳から
ソーシャルメディアを使いこなす若き活動家たち
チュニジア革命におけるソーシャルメディアの役割
エジプトのフェイスブック革命
チュニジア革命の余波
エジプトのインターネット利用状況
以前から始まっていた革命をフェイスブックが加速化
仮想的公共圏の誕生
フェイスブックによって反政府デモが一気に加速
市民側からの4つの要求
デモの発端 ハーリド・サイードの死
抗議デモの背景
エジプトの今後とフェイスブック
「EL―Face」と保守勢力の牽制
エジプト政府のツイッター規制
ウィキリークスとアノニマス、そしてアルジャジーラの活躍
フェイスブック革命を総括する
激動の3ヵ月
革命におけるソーシャルメディアの役割 透明化は止まらない
中東での市民革命の歴史
モデルケースとしてのチュニジア革命
革命におけるフェイスブックの評価
革命への障害物としてのフェイスブック!?
フェイスブック革命と米国政府のジレンマ
世界で3番目に人口の多い国、フェイスブック
若者主導のフェイスブック革命
ソーシャルメディアがひらく明日
結びにかえて 逆パノプティコン社会の到来








著者からのメッセージ
フランスの哲学者ミシェル・フーコーが書いた『監獄の誕生』という本がある。「処罰」というもの、「監獄」というものはどのようにして生まれたのか、ということについて書かれているのだが、この本の中でフーコーはひとつの概念を提示する。「パノプティコン(Panopticon)」というもので、日本語では「全展望監視システム」と訳されている。 もともとは18世紀にイギリスで功利主義を提唱したジェレミー・ベンサムという思想家によって考案された概念で、監獄というものをもっとも効率的に、そして受刑者が社会に復帰しやすくするために最終的に辿り着いた設計案だ。 「パノプティコン」の設計図はごくシンプルだ。まず、監獄の真ん中に看守塔が立つ。そしてその看守塔を囲むかたちで円形の独房があり、そこに囚人を収監する。 もうひとつ、重要な設計要件があって、それは看守塔から独房を見ることはできるが、看守塔にはブラインドをかけて、独房から看守塔を見ることはできないようにすることだ。つまり、囚人は、自分を監視する看守を見ることはできない。 その講義のなかで、担当教授がわたしたち学生に次の質問をした。 「みなさんは看守塔の中に、最低何人いれば独房の囚人を監視できると思いますか?」 はたして答えは「0人」だった。わたしを含め、誰も答えを当てることはできなかった。囚人は、実際自分が監視されているかどうかはともかく、監視されているかもしれないという、その可能性の存在を気にして自己を規律するから、というのがその理由だった。 実際に、それが正解なのかについては異論の余地はあると思うが、その根底にあるアイデアについては、ほとんどの人が賛同するものと思われる。 ウィキリークスやフェイスブック革命による一連の騒動を見て、わたしはこのパノプティコンを思い出した。ただ、構図は逆だ。つまり、通常のパノプティコンでは、政府が看守塔にいて、独房に入っている市民が政府によって監視されるのだが、ウィキリークスがつきつけたのは、わたしたち市民が看守塔から政府を監視する、という構図だ。「逆パノプティコン」とでも言うべきか。 政府や大企業をはじめとする既存の権威は、情報の占有・統制を通じて、その権威を構築・維持してきた。だが、ウィキリークスやフェイスブックが情報の透明化を究極まで進めることによって、既存の権威は崩壊し、新しい権威体制が再構築されていく。その可能性が示されたのである。 本書では、ウィキリークスやフェイスブック革命の分析を通じて、この「逆パノプティコン社会の到来」について論じることにする。 (「はじめに」より)